老いた俳優たち

慶次郎縁側日記
このドラマのすごいところは、その辛気臭くさえ感じられる地味な画面なのに、見ると俳優の演技の深さにはまって席を立てなくなってしまうところだよな。今回も老境に差し掛かった俳優にしか出せない味に釘付けだった。

第3回「三姉妹」(10月26日放送)
森口慶次郎(高橋英樹)、佐七(石橋蓮司)、鎌倉屋の安右衛門(江原真二郎)、女房(野川由美子)、お登世(かたせ梨乃)、森口晃之助(比留間由哲)、辰吉(遠藤憲一)おこと(淡路恵子)、おさよ(中原ひとみ)、おきょう(角替和枝
お登世が、最近、花ごろもに家出して転がり込んだおばの話を慶次郎に相談している。お登世が訪ねてきて上機嫌の慶次郎に面白くない佐七は、用もないのに腹を立てて外出。しかし当てにしていた店はしまっているし、鳥に糞はかけられるし全くついていない。水舎で汚れを流していると、年増女に地獄*1に連れ込まれる。老婆といってもいいような年増女郎の三姉妹にもてなされ、ことを仕掛けられ、あわてる佐七。「そのつもりはない」と金だけ置いていこうとするが、「施しをうけずに、自分たちで稼いで家政でおまんま食べてきたんだ」と逆に塩まいてたたき出される。一方、女房に出て行かれた安右衛門も鳥糞かぶるついてなさ。ヤケ酒のみに入った呑屋で、佐七と出会い意気投合。徳利下げて例の地獄へ舞い戻り、姐さんたちと盛り上がる。早くに夫を亡くした母親が家族を養うためにこの商売を始めたと、とわずがたりに身の上話。実は三人姉妹は四人姉妹で、末の妹はたいそうかわいかったのだが、この商売を嫌ってまっとうな暮らしを望んでいた。やっと幸せになれるかと思ったのだが、家族の商売が相手にばれて破談。末妹は相手の家に乗り込んで喉かき切って自害した。三姉妹は仇の男をはめて死なせたことをほのめかす。どこかへ繰り出そうと言う安右衛門に、三姉妹は「かごを出しておくれよ」と。ついたところは芝の浜辺。まだ家族が幸せだった頃、潮干狩りに来た思い出。浜辺に浮かぶ思い出の父母と、末妹と、幼い頃の自分たちに手を振る姉妹。佐七も一緒に手を振る。「生きるが勝ちよ」と陽気に宴は盛り上がる。明け方の水平線のかなたを見つめる三姉妹。「あちら側」に行きたかった末妹。「なんもありりゃしない。人が住んでいればこちらと一緒さ」それでも行ってみるかいと、浜の小船を押し出す姉妹と佐七。猟師に見咎められ子供のようにわあわあと逃げる。そこに酒を買って帰ってきた事情を知らない安右衛門も、一緒に下駄を持って白足袋で逃げる。わあわあと、子供のように波打ち際を駆ける老爺老婆。帰ってきて妙に上機嫌な佐七を怪訝な顔で伺う慶次郎。先日、地獄長屋のそばで佐七を見かけた晃之助や辰吉も「まさか女にはまったか」と笑いながら噂する。慶次郎の使いで花ごろもへ使いに行った佐七は、花ごろもに転がり込んでいた女の夫が安右衛門だと知る。目が合い、思わず頬がほころんだ二人だが、安右衛門は追い立てられるように日常へと去って行った。三姉妹を訪れた佐七は、手入れがあって跡形もなくなった長屋に立ち尽くす。近所の与太者に三人の行方を尋ねる佐七だが、手荒く振り払われ、泣き伏すのだった。「あの歳だから三姉妹はお目こぼしがあったに違いない」と、いつもとあべこべに慶次郎に怪我の手当てをしてもらいながら、佐七は「あちら側」に船出して行く三姉妹の姿を思うだった。
普通の人以上に畳み込まれてしまった人生の皺。その生業で身についたいびつさと純真さを併せ持つ三姉妹を演じた淡路、中原、角替が絶妙。容貌の衰えを隠しもせずに強く変わる女を内面の変化を演じる野川も凄みがある。石橋の老いの孤独のにじむ演技も溜息もの。また江原演じる自信いっぱいで生きてきた男にも不安や老いは兆している。もう、年を取った俳優にかなうもんはないなあと思うほど爺さん婆さんがかっこよかった。
すごいな。わたしのこどもの頃は歯磨きのCMに出るさわやかなお母さんが、安女郎。そのだんなが業突張りののっとり商人。いやー、感慨深いですわ。多分ね、今のテレビドラマでここまで意外性のある配役を役者がディープに演じることってあまりないんじゃないかな。この点だけでも、NHKと言うテレビ局はなくなったらだめだよ。

*1:違法の安女郎が貧乏長屋に客を引き入れ商売をする