魔術はささやく

サイコサスペンスって書くと、サイコな奴(精神病患者、精神に異常をきたした人)が出てくるサスペンスって意味が普通の使い方なんだと思うんだけど、精神や心理をトリックに用いたサスペンスにも使われる。猟奇じゃないほうのサイコサスペンスね。または、インテリっぽいサイコサスペンス(笑)
本作は後者のサイコサスペンス。
おもしろうございました。
主人公が生い立ちの不幸な知恵と勇気のある少年。犯人がインテリで、主人公も言い負かされそうな信念を持った殺人者。少年は持前の素直さと聡明さで犯人にたどり着き、柔軟な心で強者の理屈を跳ね除けて危機を救う。そして解決までの苦しみが、少年を少し成長させている。鉄板。
宮部みゆきはホント、わたしの中の佐々木丸美心をくすぐるねえ。設定も、キャラの配置も造形も全く違うのに、のっけから「似ている!」と思えたのは、女たちの自殺の描写だ。*1。主人公の少年の、いじめられても黙ってひねずに成長した姿なども、佐々木丸美の少女を髣髴とさせる。『蒲生邸事件』よりもデ・ジャ・ヴュは早かったな。
謎解きのテクニックよりも、人の心の暗部のやりきれなさや、主人公の成長のさわやかな強さが印象に残る。少年主人公は決して濁らないという鉄則。これが何よりの快楽だ。主人公は自分の少年時代でもなく、今の子でもない。夢の少年主人公なんだよね。彼のピュアさは高校生の持ち物ではなさそうな感じがする。昔懐かしい少年探偵なんだ。
気持ちいい少年の成長に会いたい時には良い1冊。日本推理サスペンス大賞受賞作なんだけど、少年の成長物語としても良作です

魔術はささやく (新潮文庫)

魔術はささやく (新潮文庫)

*1:この道具立てだと似ざるをえないのかな?